交通事故による高次脳機能障害の後遺障害と賠償

高次脳機能障害は、交通事故などで脳に損傷を受けた後、記憶、注意、判断、計画、感情や行動のコントロールなどに障害が残り、日常生活や仕事に支障が生じる状態です。手足の麻痺のように外見から分かりやすい症状だけではなく、「同じことを何度も尋ねる」「以前ならできた仕事の段取りが組めない」「怒りっぽくなった」「疲れやすく集中が続かない」といった変化として現れることがあります。本人が症状を自覚しにくい場合もあり、事故前から生活を知る家族や勤務先の観察が重要になります。

このページで押さえる3点

  1. 画像検査だけでなく、事故直後の意識障害、神経心理学的検査、日常生活・就労の変化を総合して確認します。
  2. 後遺障害等級は診断名だけでは決まらず、介護の必要性、就労制限、社会生活への影響などが重要です。
  3. 本人に自覚が乏しいときほど、家族・職場から見た事故前後の変化を具体的に記録しておくことが大切です。

高次脳機能障害でみられる主な症状

代表的な症状には、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などがあります。記憶障害では、新しい出来事を覚えられない、約束を忘れる、同じ質問を繰り返すといった問題が出ます。注意障害では、作業中に別の刺激へ気を取られる、二つの作業を同時にこなせない、長時間集中できないといった変化がみられます。遂行機能障害では、目的に沿って計画を立て、順番に実行することが難しくなります。社会的行動障害では、感情の抑制が難しい、対人関係でトラブルが増える、意欲が低下するなど、事故前とは異なる人格・行動面の変化が問題になることがあります。

これらの症状は、病院内の短時間の診察では目立たないことがあります。退院後に家庭へ戻ったとき、買い物や金銭管理ができない、公共交通機関を一人で使えない、子どもの世話ができないなど、生活の中で初めて分かる支障もあります。復職できた場合でも、単純作業しか任せられない、ミスが増えた、周囲のフォローが必要になった、配置転換や勤務時間短縮が必要になったという事情は、障害の程度を説明する重要な材料になります。

診断・後遺障害認定で重要な検査と資料

頭部CTやMRIなどの画像検査は、脳損傷の部位や程度を確認するために重要です。ただし、画像上の変化が小さいことだけで高次脳機能障害が直ちに否定されるわけではありません。事故直後の意識障害の有無・程度・持続時間、救急搬送時の記録、入院中の経過、神経学的所見などを合わせて確認します。

さらに、記憶、注意、処理速度、遂行機能などを評価する神経心理学的検査が行われることがあります。検査結果は重要ですが、点数だけを単独でみるのではなく、実際の生活場面で何ができなくなったのかと結びつけて整理することが必要です。家族が作成する日常生活状況の報告、事故前後の具体的なエピソード、学校・勤務先の記録、復職後の評価、介護や見守りの内容なども大切です。

後遺障害等級で問題になるポイント

高次脳機能障害では、神経系統の機能または精神の障害として、重症例では介護の必要性がある等級が問題になり、就労や社会生活への影響に応じて3級、5級、7級、9級などが検討されることがあります。実際の等級は、症状名や検査結果だけで機械的に決まるものではありません。日常生活で一人でできること、見守りや援助が必要なこと、仕事にどの程度復帰できているか、対人関係にどのような制約があるかなどを総合して判断します。

特に注意したいのが「復職したから障害は軽い」と単純に評価されないよう、復職の実態を具体化することです。元の職務から大幅に軽い仕事へ変わった、同僚の継続的なサポートがある、勤務日数が減った、失敗が増えて評価が下がったなどの事情があれば、その内容を記録しておくことが重要です。家族の介助についても、声掛け、予定管理、服薬管理、金銭管理、外出同行など、日常的に行っている支援を具体的に整理します。

治療・リハビリと症状固定

高次脳機能障害では、急性期治療後もリハビリテーションによって機能が改善する場合があります。認知訓練だけでなく、生活上の工夫、環境調整、職業リハビリテーションなどが行われることもあります。症状固定の時期は一律ではなく、回復の経過やリハビリの効果、生活への適応状況を踏まえて主治医が判断します。

保険会社から治療費の打ち切りや症状固定を促された場合でも、それだけで医学的に症状固定になるわけではありません。主治医に、現在どの機能が改善途中なのか、今後どの程度の改善が見込まれるのかを確認し、診療記録に残してもらうことが重要です。

賠償で確認すべき項目

高次脳機能障害では、後遺障害慰謝料や逸失利益が大きな争点になります。事故前の収入、年齢、職種、復職状況、労働能力の低下などをもとに検討します。症状が重い場合は、将来介護費、介護用品、住宅改造、付添費などが問題になることもあります。単に後遺障害等級が決まれば賠償額が自動的に決まるわけではなく、実際の生活や仕事への影響を損害項目ごとに立証していく必要があります。

家族が仕事を減らして見守りや介護をしている場合など、本人以外の生活にも大きな影響が出ます。将来にわたる介護や支援の内容を見通し、医療・福祉の資料とともに整理しておくことで、必要な損害を漏らさず検討しやすくなります。

保険会社対応で注意したいこと

高次脳機能障害は、外見上の障害が分かりにくく、事故後しばらくしてから家族や職場が変化に気づくことがあります。そのため、示談を急ぐと、後から明らかになった症状を十分に反映できないおそれがあります。保険会社から示談案が届いた場合は、後遺障害認定の手続が適切に行われているか、逸失利益の基礎収入・労働能力喪失率・期間が妥当か、将来介護費など必要な項目が含まれているかを確認する必要があります。

弁護士へ相談するタイミング

「後遺障害申請の直前まで待つ」のではなく、高次脳機能障害が疑われた段階で相談しておくと、必要資料や家族の記録を早くから準備できます。特に、本人の病識が乏しい、仕事に復帰したものの以前と同じように働けない、保険会社から治療終了を打診されている、家族の介護負担が大きいといった場合は、示談前に状況を整理しておくことが重要です。

よくある質問

画像所見は重要な判断材料ですが、それだけで結論が決まるものではありません。事故直後の意識障害、診療記録、神経心理学的検査、日常生活状況、就労・就学の変化なども含めて総合的に評価されます。

問題ありません。高次脳機能障害では本人に障害の自覚が乏しい場合があります。家族が気づいた事故前後の変化を、具体的な出来事とともに整理して相談してください。

復職した事実だけで判断されません。仕事内容の変更、ミスの増加、同僚の援助、短時間勤務、収入減少など、復職後の実態を確認する必要があります。

症状の程度によっては、危険回避のための見守りや予定管理などが重要な支援になることがあります。実際に何をどの頻度で行っているかを具体的に記録してください。

提示後でも相談できますが、資料収集や後遺障害申請の段階から確認した方が対応しやすい場合があります。少なくとも示談書へ署名する前に内容を確認することが重要です。

監修:日本交通法学会正会員 倉橋芳英弁護士

最終更新日:

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