交通事故でMRI異常なしでも高次脳機能障害?びまん性軸索損傷(DAI)の立証方法

【30秒でわかる結論】
結論:
CTや通常のMRIで「異常なし」でも、脳の神経線維がねじ切れる「びまん性軸索損傷(DAI)」の可能性があります。自賠責保険の実務上、画像所見は原則として必要ですが、「見えていないだけ」のケースがあり、諦めるのはまだ早いです。
相場レンジ:
認定されれば数百万〜数千万円(等級による)ですが、非該当なら数十万円程度(むちうち等)に留まることもあり、天と地ほどの差があります。
今日やること:
事故直後の「意識障害の記録(JCS/GCS)」を確認し、微細な出血痕をとらえる「T2スター(T2*)」や「SWI(磁化率強調画像)」などの特殊撮影ができないか、主治医に相談してください。
「検査では異常ありません。骨も折れていないし、もう大丈夫でしょう」
医師からそう言われても、「以前より明らかに怒りっぽくなった」「仕事のミスが急に増えた」といった違和感を抱えていませんか?
ご家族にとって、「本人の様子はおかしいのに画像の証拠がない」という状況は、出口の見えないトンネルを歩いているような不安があると思います。
実は、交通事故による脳の損傷には、通常のCTやMRI(T1/T2強調画像)では写らないタイプが存在します。
びまん性軸索損傷がその代表例です。
救急搬送時のCTは「命に関わる出血や骨折」を見つけることが主な目的であり、ミクロレベルの神経断裂までは写し出せないことが多いのです。
これを見落としたまま示談すると、本来受け取るべき補償が得られず、将来の介護や生活費に大きな不安を残しかねません。
この記事では、大分県内で多数の交通事故案件を扱ってきた弁護士が、「画像所見なし」の壁を突破するための検査方法や、画像以外の重要な証拠について解説します。
交通事故による高次脳機能障害の全体像(症状・原因・等級)については、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

今すぐ相談すべきサイン
画像と症状が食い違っている:
CT/MRIで異常なしと言われたが、家族から見て性格が変わったり、記憶力が低下したりしている。
意識障害の記録がある:
事故直後、6時間以上の意識不明(半昏睡〜昏睡)、または1週間以上の健忘(記憶がない期間)があった。
「精神的なもの」で片付けられている:
医師から「画像に異常がないので、うつ病などの精神的なものでしょう」と言われているが、納得できない。
もし一つでも当てはまるなら、早めのご相談が重要です。
高次脳機能障害は「最初の検査」と「記録」が命綱です。
時間が経つほど立証は難しくなります。
資料がまだ揃っていなくても構いません。
まずは弁護士に状況をお聞かせください。見通しと次の一手を整理いたします。
なぜ「異常なし」と言われる?CTに写らないびまん性軸索損傷(DAI)
脳の繊維が「引きちぎられる」損傷
交通事故で頭に強い回転力(回転加速度)が加わると、脳が頭蓋骨の中で激しくねじれます。
このとき、脳の深部にある神経線維(軸索)が広範囲にわたって引きちぎれてしまう——これが「びまん性軸索損傷(DAI)」です。
脳挫傷
脳が骨にぶつかり、局所的に出血・損傷する(CTに写りやすい)
びまん性軸索損傷
脳全体でミクロレベルの繊維が断裂する(通常のCT/MRIに写りにくい)
この「微細な断裂」やそれに伴う「微小な点状出血」は、命に関わる大きな出血を見るための救急検査(CT)や一般的なMRI(T1/T2強調画像)ではとらえきれないことが多く、一見すると「きれいな脳(画像上は異常なし)」と診断されやすいのが最大の特徴です。
「異常なし」でも後遺症は残る
画像に映らなくても、脳内の神経ネットワークは寸断されています。
そのため、手足の麻痺はなくても、「新しいことが覚えられない(記憶障害)」「感情が抑えられない(社会的行動障害)」といった高次脳機能障害の深刻な症状が現れます。
立証における「最大の壁」
自賠責保険の実務では、後遺障害の認定に「画像による脳の器質的損傷の裏付け」が原則として必須とされています。
ここが被害者を最も苦しめるポイントです。
「症状はあるのに画像がないから、精神的なもの(非器質性精神障害)として扱う」と判断されないためには、見えない損傷をいかにして可視化するかが勝負の分かれ目になります。
画像に写らないケースで認定を目指す「3つの検査・視点」
通常のMRI(T1/T2強調画像)で異常が見つからなくても、諦めるにはまだ早いです。
大分県内の医療機関でも導入が進んでいる「特殊な撮影方法」を行うことで、これまで見えなかった痕跡が見つかる可能性があります。
① 微細な出血を探す「T2スター(T2*)」と「SWI」
びまん性軸索損傷では、神経の断裂に伴って微細な点状出血が生じていることがよくあります。
出血した血液中の成分(ヘモグロビン)は、時間が経つと「ヘモジデリン」という鉄成分に変化して脳内に沈着します。
この痕跡を鋭敏にとらえるのが、以下の撮影モードです。

T2スター(T2*)強調画像
従来のMRIよりも、出血後の鉄分沈着を「黒い点」として見つけやすい検査です。事故から時間が経っていても痕跡が残るため、後からの立証に非常に有効です。
SWI(磁化率強調画像)
T2スターよりもさらに感度が高く、より微細な出血痕や静脈の異常を検出できる撮影法です。自賠責保険の報告書でも、微細な出血痕等を描出できる撮像方法として期待されている旨が記載されています。
「異常なし」と言われた後でも、主治医に「高次脳機能障害を心配しているので、T2スターやSWIでの撮影は可能ですか?」と相談する価値は十分にあります。
② 時間の経過で見る「脳室拡大(脳萎縮)」
事故直後の画像では異常がなくても、損傷を受けた脳細胞が徐々に壊死し、数ヶ月後に「脳全体が縮む(脳萎縮)」ことがあります。
脳の実質が縮むと、その隙間にある「脳室(髄液の部屋)」や「脳溝(脳のしわ)」が相対的に広がって見えます。
| 確認方法 | 「事故直後(急性期)」の画像と「事故から3〜6ヶ月後(慢性期)」の画像を並べて比較します。 |
|---|---|
| ポイント | 自賠責の実務では、外傷後おおよそ3ヶ月程度で脳室拡大が固定すると考えられています。若い方が短期間で脳の萎縮を起こすのは不自然であり、この変化があれば「事故による脳損傷」の有力な証拠となります。 |

③ SPECT・PET・DTIの有用性と限界
MRI以外の検査として、脳の血流を見る「SPECT」、代謝を見る「PET」、神経線維の走行を見る「DTI(拡散テンソル画像)」などがあります。
「機能が低下している部位」を可視化できる検査ですが、活用にあたっては注意点があります。
自賠責保険での扱い
あくまで「参考資料」という位置づけです。CTやMRIなどの形態画像で異常がない場合、SPECTなどの所見だけで「脳損傷あり」と認定されることは現状では困難とされています。
裁判での扱い
一方、裁判では意識障害の詳細な記録や生活状況と合わせて、SPECTやPETの所見が補強証拠として採用され、高次脳機能障害が認められた事例も存在します。
まずはMRIの特殊撮影(T2*/SWI)での立証を最優先にし、それでも難しい場合の「次の一手」として、弁護士と相談しながら検討するのが定石です。
画像以外の証拠が「命綱」になる理由
画像所見がどうしても得られない、あるいは乏しいとき、認定の可否を左右する命綱となるのが「事故直後の意識状態」と「日常生活の具体的なエピソード」です。
事故直後の「意識障害」の記録
びまん性軸索損傷が起きるほどの衝撃を受けた場合、通常は意識障害(意識不明や混乱)を伴います。
自賠責保険の実務では、この意識障害の「深さ」と「続いた時間」によって、画像所見が乏しくても審査対象にするかどうかの基準を設けています。

JCS(ジャパン・コーマ・スケール)
「3-3-9度方式」とも呼ばれる日本独自の意識レベル指標です。
GCS(グラスゴー・コーマ・スケール)
世界的に使われている指標です。
【認定の目安となる基準】
| 意識障害のレベル | 持続時間の目安 |
|---|---|
| 半昏睡〜昏睡 (JCS 2〜3桁/GCS 12点以下) |
呼びかけに反応しない、または反応が鈍い状態が 少なくとも6時間以上 |
| 健忘・軽度意識障害 (JCS 1桁/GCS 13〜14点) |
ぼんやりしている、事故の記憶がない状態が 少なくとも1週間以上 |
カルテや救急隊の記録にこれらの数値や持続時間が記載されていれば、画像所見が乏しくても「脳に重大な損傷があった」ことを推認させる強力な証拠になり得ます。
ご家族が作る「日常生活状況報告書」
画像に写るのは「脳の傷」だけですが、審査側が知りたいのは「その傷によって生活にどんな支障が出ているか」です。
医師は診察室での短い時間しか本人を見ていないため、家庭内で起きている「すぐに怒る(易怒性)」「被害妄想」といった社会的行動障害を十分に把握できません。
これを伝える役割を担うのが、ご家族が作成する「日常生活状況報告書」です。
審査では以下の4つの能力がどれくらい失われているかが評価されます。
① 意思疎通能力
記銘・記憶力、認知力、言語力
② 問題解決能力
理解力、判断力、論理性
③ 作業負荷に対する持続力・持久力
精神的・身体的なスタミナ
④ 社会行動能力
協調性、感情コントロール
たとえば、「火の不始末が増えた(問題解決能力の低下)」「約束を忘れて激昂するようになった(記憶力・社会行動能力の低下)」——こうした具体的なエピソードを、医師任せにせず、一番近くで見ているご家族が記録・提出することで、認定の可能性を大きく高められます。
画像所見がないケースは、保険会社から「後遺障害はない(非該当)」と判断されやすく、最も争いになりやすい類型の一つです。
一度「非該当」の結果が出てから覆すのは、労力も時間もかかります。
「異常なしと言われたが不安」という段階でご相談いただければ、
今必要な検査のアドバイスや、主治医への情報提供書の作成依頼など、先手を打ったサポートが可能です。
【チェックシート】医師・弁護士相談用の立証可能性整理
「自分のケースでは立証できそうか?」を整理するための簡易チェックシートです。
医師への検査依頼や弁護士への相談時にこの情報があると、見込みの有無や不足している証拠がすぐに把握でき、話がスムーズに進みます。
スマホでスクリーンショットを撮るか、メモに控えてご活用ください。
A. 事故直後の意識障害(カルテ・救急隊記録で確認)
※自賠責保険が審査対象にするかどうかの重要な基準に関わります。
- 事故直後、意識を失っていた(呼びかけに反応なし)
- 意識はあったが、もうろうとして会話にならなかった
- 事故前後の記憶が飛んでいる(健忘)
- 半昏睡〜昏睡(JCS 2〜3桁/GCS 12点以下)が6時間以上続いた
- 健忘・軽度意識障害(JCS 1桁/GCS 13〜14点)が1週間以上続いた
B. 現在の画像検査状況(見落としチェック)
- CTしか撮っていない(MRIは未実施)
- 通常のMRI(T1/T2)は撮ったが「異常なし」と言われた
- 微細な出血痕(ヘモジデリン)を見る「T2スター」や「SWI」の特殊撮影はまだしていない
- 事故直後の画像と現在の画像(3ヶ月後など)を比較して「脳室拡大(脳萎縮)」の有無を確認していない
C. 困っている症状(4つの能力の低下)
- 新しいことを覚えられない、すぐ忘れる(記憶・記銘力障害)
- 感情のコントロールが効かない、怒りっぽい(社会的行動障害・易怒性)
- 複数の作業を同時にこなせない、段取りが悪い(遂行機能障害)
- 疲れやすく、意欲がわかない(発動性の低下)
D. 医師への依頼事項(診断書作成時)
- 症状の原因として「びまん性軸索損傷(DAI)」の疑いがあるか確認する
- 自賠責専用の「頭部外傷後の意識障害についての所見」を作成してもらう
- 自賠責専用の「神経系統の障害に関する医学的意見」を作成してもらう
まだ間に合うかどうかの分かれ道
画像所見(微細な出血痕や脳萎縮)や意識障害の記録は、時間が経つほど確認が難しくなり、因果関係の証明も困難になります。
特に「脳萎縮」の進行は、事故後3ヶ月〜6ヶ月程度で固定(ストップ)するとされており、時期を逃すと「事故による変化」なのか「加齢による変化」なのか区別がつかなくなります。
| 相談をおすすめするケース | 上記チェックで一つでも当てはまるものがあり、まだ示談していない場合。 |
|---|---|
| 特に注意が必要なケース | 「もう治った」として治療費の打ち切りに応じようとしている場合。一度終了すると、後から高額なMRI費用を請求するのは困難です。 |
手元に資料がなくても、「事故直後は意識がなかった気がする」といった記憶ベースのご相談で構いません。
弁護士がカルテを取り寄せ、記載内容を精査することが可能です。
まとめ
CTやMRIで「異常なし」と言われても、脳の神経線維が広範囲に断裂する「びまん性軸索損傷(DAI)」の可能性があります。
自賠責保険の実務では「画像所見」が極めて重視されますが、諦める前に以下の3点を確認してください。
①「見えない出血」を探す:
微細な出血痕(ヘモジデリン)をとらえる「T2スター(T2*)」や「SWI」での撮影を検討する。
②「時間の経過」を見る:
事故直後だけでなく、受傷から3〜6ヶ月後の画像と比較し、「脳室拡大(脳萎縮)」が進んでいないか確認する。
③「画像以外」で補強する:
事故直後の「意識障害の記録(JCS/GCS)」と、ご家族が作成する「日常生活状況報告書」は、画像所見の不足を補う重要な証拠になる。

よくある質問(FAQ)
Q1. 事故から時間が経っていますが、今からでもMRIを撮る意味はありますか?
A.はい、非常に大きな意味があります。
びまん性軸索損傷による微細な出血痕(ヘモジデリン沈着)は長期間にわたり脳内に残ることが多いため、事故から時間が経っていても「T2スター」や「SWI」で検出できる可能性があります。
また、外傷による脳萎縮(脳室拡大)は受傷後おおよそ3ヶ月で固定すると考えられています。事故直後の画像と現在の画像を比較し、「萎縮が進んでいる」ことを示せれば、事故による脳損傷の有力な証拠になります。
Q2. 医師に「特殊なMRIを撮ってください」と頼んでも断られませんか?
A.伝え方の工夫が大切です。弁護士がサポートできます。
単に「撮ってほしい」と頼むだけだと、治療上は必要ないと判断されることがあります。「高次脳機能障害の立証のために、微細な出血痕や脳萎縮の有無を確認したい」という目的をきちんと伝えることが重要です。
当事務所では、弁護士から主治医に対して「医療照会(画像鑑定の依頼や意見書の作成依頼)」を行い、医師が検査や診断書作成に応じやすい環境を整えるサポートを行っています。
Q3. 結局、画像で異常が見つからなかったら諦めるしかないのでしょうか?
A.自賠責では厳しいですが、裁判で認められる可能性はゼロではありません。
自賠責保険は画像所見を重視するため、画像がないと認定は困難です。
ただし裁判では、詳細な「意識障害の記録(半昏睡が6時間以上など)」や「SPECT検査」の結果、そして「事故前後での顕著な生活能力の低下」を総合的に立証することで、画像所見が乏しくても高次脳機能障害(またはそれに準ずる等級)が認められた判例が存在します。
諦める前に、専門家による見通しの確認を受けてください。
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