交通事故による手・手関節・手指の損傷の後遺障害と賠償

手は、握る、つまむ、回す、押す、書く、入力するといった細かな動作を担うため、わずかな機能低下でも仕事や生活へ大きく影響することがあります。交通事故では、手をついて転倒した、ハンドルを握った状態で衝撃を受けた、車体に手を挟まれたなどの状況から、手根骨・中手骨・指骨の骨折、脱臼、腱損傷、神経損傷、TFCC損傷などが生じます。

このページの要点

  • 傷病名だけでなく、どの指・どの関節・どの動作に障害があるかを具体化します。
  • X線、CT、MRI等を傷病に応じて確認し、手術を受けた場合は術中所見も重要です。
  • TFCC損傷では事故直後からの小指側手首痛と診療記録の連続性が重要になることがあります。
  • 利き手、職種、家事・育児での使用状況を整理します。

手指骨折・脱臼

指の骨折や脱臼では、骨癒合後も関節の動きが悪い、指が曲がらない・伸びない、変形が残る、握力やつまみ動作が低下するといった症状が残ることがあります。複数の指を負傷した場合、個々の指の障害だけでなく手全体の機能への影響を確認します。

腱・神経の損傷

腱が損傷すると特定の指を曲げる・伸ばす動作に障害が出ることがあります。神経損傷では、しびれ、知覚低下、筋力低下、巧緻運動の障害が問題になります。画像だけでは分かりにくいこともあるため、診察所見、筋力・知覚検査、手術記録などを確認します。

TFCC損傷

TFCCは手首の小指側にある軟骨・靱帯等の複合体です。損傷すると、ドアノブを回す、タオルを絞る、ペットボトルを開ける、重い物を持つといった動作で痛みが出ることがあります。初診時に「手首捻挫」と診断され、後になってMRIや専門医の診察でTFCC損傷が判明する場合があります。その場合、事故直後のカルテや施術記録に手首痛が残っているか、症状が継続しているかを確認します。

後遺障害診断書

手関節の可動域、各指の関節可動域、握力、知覚、疼痛部位などを症状に応じて確認します。「手が使いにくい」という抽象的な訴えだけでなく、ボタンを留められない、箸を使いにくい、キーボード入力で痛む、工具を持てないといった具体的な動作を整理します。

仕事への影響

事務職、医療職、調理、製造、建設、美容、運転など、ほとんどの職種で手を使用します。利き手かどうか、反復作業の回数、事故後の作業速度低下、担当変更、同僚の補助などを記録します。事故前と同じ収入が続いていても、実際の労働負担や将来の職業選択へ影響がないかを確認します。

よくある質問

それだけで事故との関係が否定されるとは限りません。事故直後の手首痛の記録や、その後の受診経過を確認します。

可動域、筋力、知覚、巧緻動作への影響を具体的に整理します。

手術の有無だけでは決まりません。術後に残る症状と客観的所見を確認します。

認定理由を確認し、追加資料による異議申立ての意味があるか検討します。

手の損傷は「部位」と「機能」を細かく分ける

手・手関節・手指の損傷では、「右手を負傷した」というだけでは後遺症の実態を把握できません。親指・示指などどの指か、MCP・PIP・DIPなどどの関節か、手首の掌側・背側・小指側などどの部位かを明確にします。曲げる、伸ばす、つまむ、握る、回す、押すといった機能も分けて確認します。複数指に障害がある場合は、個別の可動域だけでなく手全体の把持・巧緻機能への影響を整理します。

骨折・脱臼後の可動域

手指骨折や脱臼では、骨癒合後に関節拘縮が残ることがあります。症状固定時に各関節の可動域が適切に測定されているか、健側との差があるかを確認します。腫れが強い時期の一時的な数値ではなく、治療・リハビリ後の安定した状態で評価することが重要です。変形癒合がある場合は画像も合わせます。

腱損傷・神経損傷

屈筋腱・伸筋腱等の損傷では、特定の指を曲げる・伸ばす動作が障害されることがあります。神経損傷では、知覚低下、しびれ、筋力低下、物をつまみにくいなどの障害が生じます。手術を受けた場合は術中所見や修復内容、術後リハビリを確認します。神経症状では、どの領域の感覚が低下しているか、筋萎縮があるか等の診察所見も重要です。

TFCC損傷で事故との関係を整理する

TFCC損傷は初診時のX線では直接分かりにくく、後になってMRIや専門医診察で判明することがあります。そのため、事故直後のカルテに小指側の手首痛や前腕回旋時痛が記録されているかが重要です。初診診断書にTFCCという病名がなくても、症状が事故直後から一貫していたことを示せる資料がないか確認します。整骨院等を利用していた場合も、医療機関の診療記録と合わせて経過を整理します。

利き手と仕事内容

利き手側の障害では、筆記、PC、工具、包丁、医療器具など日常的な作業への影響が大きくなることがあります。ただし、利き手かどうかだけで逸失利益が決まるわけではありません。仕事で両手をどのように使っていたか、事故後に作業速度や精度がどの程度変化したかを具体化します。

事務職ではタイピング量、製造業では工具や部品の把持、医療・介護では処置や移乗、調理では包丁・鍋、運転ではハンドル操作など、作業単位で記録します。事故後に補助具を使っている、同僚へ任せる作業が増えた、残業ができないといった事情も資料化します。

家事・育児への影響

手は家事のほぼすべてに関わります。包丁、食器洗い、洗濯物を絞る、掃除、買い物袋、子どもの抱っこ、ボタン留めなど、事故前後の違いを記録します。主婦・主夫の損害を検討する場合には「家事が大変」という抽象表現ではなく、家族が代わった家事と期間を具体化します。

後遺障害申請前の資料点検

画像、手術記録、可動域表、握力、知覚・筋力所見、リハビリ記録、後遺障害診断書を並べます。左右や指番号の記載間違いがないか、痛みだけでなく機能障害が記載されているかを確認します。複数の障害がある場合は、一つの「手の痛み」にまとめず、それぞれを整理します。

手指の可動域と巧緻動作を分ける

手指では関節可動域が比較的保たれていても、つまむ、ボタンを留める、硬貨を扱う、文字を書くなどの巧緻動作に支障が残る場合があります。診察時には単に「指は動く」とするのではなく、事故前にできた細かな作業がどの程度できるかを具体的に伝えます。

症状固定前の確認

手術後や腱・神経損傷では、リハビリで機能が改善する期間があります。可動域、握力、知覚が改善途上なら、主治医に今後の見通しを確認します。保険会社の治療費支払い終了だけを理由に症状固定を急がないことが重要です。

示談前の仕事資料

仕事で手を使う頻度、利き手、作業速度、担当変更、休憩増加を事故前後で比較します。勤務先の配慮で収入が維持されている場合も、その実態を資料化します。

相談前に整理しておくとよい情報

手・手関節・手指の損傷では、受傷した手、利き手、傷病名、手術歴、現在できない動作を整理しておくと資料確認が進めやすくなります。仕事では一日にどの程度手を使うか、事故後に担当変更や補助があるかも記録します。診断書、画像、可動域、手術記録を揃え、症状と資料の対応を確認します。

示談前の最終確認

手・手関節・手指の障害は部位が細かいため、傷病名、指・関節、可動域、神経・腱症状、利き手、仕事内容を対応させます。複数の指や機能に障害がある場合は、一つの「手の痛み」にまとめず個別に資料化します。

監修:日本交通法学会正会員 倉橋芳英弁護士

最終更新日:

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