治療中の転院

最終更新日2021.8.23(公開日:2017.7.27)
監修者:日本交通法学会正会員 倉橋芳英弁護士

 

 

治療中の転院は可能か

 

 「主治医があまり症状の訴えをきいてくれない」「積極的な治療をしてくれず治療効果を感じない」「病院まで距離があり仕事をしながら通院するのが難しい」「主治医が整骨院での治療を許可してくれない」などの理由で、治療中に転院をしたいというご相談をよく受けます。
被害者の方は、転院して良いかどうかを決めるのは保険会社であると思われていることも多いのですが、そんなことはありません。そもそも、どの医療機関で、どのような治療を受けるのかは、被害者自身が決めることができるというのが原則です。

 

転院のメリット

 

親身な医師による診療

 医師の中には、患者としっかりとコミュニケーションを取らない医師もいます。 また、交通事故の軽傷患者に対して偏見をもっていて、交通事故の軽傷患者の治療を嫌がる医師もいます。このような医師のもとでは、なかなか治療効果もあがりません。このような場合は、転院を検討してみても良いでしょう。
転院先の医師が、しっかりとコミュニケーションが取れる医師であった場合は、納得のいく治療につながりやすいです。

 

治療効果のある治療

 「症状の原因がはっきりとわからず、治療効果をあまり感じない治療がずっと続いている」という状況の被害者の方は多いです。

同じ傷病でも、病院や医師によって行う検査や治療は異なります。例えば、むちうちの治療には、電気治療、温熱治療、牽引治療、理学療法士による運動療法や物理療法、投薬治療、神経ブロック療法など様々な治療があります。この中で、どのような治療を行うかは、病院や医師により異なります。同じ病院で治療効果が出ない治療が続いている場合は、転院をして異なる治療をすることで治療効果が上がることがあります。

また、転院先の病院での検査で、いままで原因がわからなかった症状の原因がわかることもあります。症状の原因がわかれば、効果のある治療にもつながりやすいですし、症状の原因がわかるだけでも被害者の安心につながります。

 

通院の利便性

 病院は、最終の診察受付が午後5時から6時くらいの所が多く、また、平日しか診療していないことも多いです。したがって、病院が自宅や職場から離れた場所にある場合は、なかなか通院ができないということもあります。
このような場合は、通院しやすい近場の病院に転院することも検討してみても良いでしょう。

 

整骨院への通院

 整形外科の医師は、整骨院での柔道整復師による治療に対する理解がない方も多いです。整骨院を毛嫌いしている医師も少なからずいます。

交通事故の賠償実務では、整骨院での治療は、あくまで「医師の指示や同意」のもとで行われるのが原則であるとされています。そのため、明確に医師が「整骨院NG」の病院に通院していると、整形外科と整骨院を併用した治療を行うことができません。

このような場合は、整骨院での治療に理解のある医師のいる病院に転院することで、整形外科と整骨院を併用した治療を行うことができます。

 

転院のデメリット

 

転院をすることで、後遺障害の認定の際に不利な事情となるリスクや、転院後の治療費の支払いについて保険会社と揉めるリスクがあるというデメリットもあります。

 

後遺障害の認定の際に不利になるリスク

 

症状の一貫性が不明瞭になるリスク

 後遺障害の認定は「事故後から症状固定時まで一貫して持続している症状」を対象として行われます。そして、「一貫して持続している症状」かどうかは、医師が治療中に作成する診断書(「経過診断書」といいます。)と症状固定時に作成する後遺障害診断書を照らし合わせて判断するのが基本です。

治療中に転院をすると、複数の医師が経過診断書や後遺障害診断書を作成することになるため「一貫して持続している症状」かどうかがわかりにくくなることがあります。
これは、転院先の医師は、事故後から自身が診察を開始するまでの間の症状を直接診察していないため、事故後からどのように症状が推移しているかがわからず、経過診断書や後遺障害診断書に正確な症状の推移を書きにくいということが1つの原因です。

また、患者は一貫して同じ症状を訴えていたとしても、医師により診断書への記載の仕方が異なるため、経過診断書を並べてみた時に症状が一貫していないようにみえてしまうこともあります。こうなると、後遺障害の認定を得ることが難しくなります。

 

転院が多いこと自体が不利に判断されるリスク

 治療期間中の転院が多いと、そのこと自体が後遺障害の認定にとって不利に判断されるリスクがあります。特に、捻挫や打撲という比較的軽傷の場合で転院の回数が多い場合には注意が必要です。

医学上、むちうちなどの症状が長く続く原因の1つとして、被害者の心因的要因(精神的な要因)があると考えられています。例えば、被害者意識が強い被害者ほど、自身の症状に過敏になり、症状が長引きやすいなどと考えられています。

治療期間中の転院が1回程度だと、よくあることなので特に問題にはなりませんが、3回、4回と転院をしているとなると、被害者の側に何か心因的な要因があるのではないかと判断され、後遺障害の認定の際に不利に判断されるリスクがあります。

 

任意保険会社が治療費の立替払いを拒否するリスク

交通事故の治療費は、治療期間中、加害者の任意保険会社が医療機関に直接立替払いを行う対応を行うことが一般的です(「任意一括対応」といいます。)。

治療中に転院をした場合、加害者の任意保険会社が転院の必要性を認めず、この任意一括対応を拒否することがあります。
この場合は、被害者は、いったん病院の窓口で治療費を自身で支払い、後から加害者の自賠責保険会社に治療費の支払いを請求することになります。自賠責保険会社の支払上限額の120万円までは自費で通院した治療費の自賠責保険から回収できることが多いですが、自賠責の支払上限の120万円を超えた分については治療費が被害者の手出しになるリスクが出てきます。

 

転院の手順

 

1.転院先の病院を決める

まずは、転院先の病院を決めることから始まります。病院や医師の口コミの評判や、病院の施設や体制、通院の利便性などの点から、転院先の病院を決めてください。
先に述べたように、治療期間中に転院を何回もすると後遺障害の認定の際に不利に判断されるリスクがありますので、しっかりとリサーチをしたうえで転院先を決めるのが良いです。

 

2.加害者の任意保険会社に転院を伝える

転院先の病院が決まったら、加害者の任意保険会社に転院する旨と転院先の病院を伝えましょう。そうすると、任意保険会社から病院に「交通事故によるケガの治療なので、治療費は保険会社に請求してください」という連絡がいきます。保険会社に事前に連絡をせずに転院先の病院を受診すると、病院としては保険会社が治療費を支払ってくれるかどうかがわからないため、窓口で被害者の方に支払いを請求せざるを得ないことになります。

保険会社に転院を伝えた際、転院の理由を聞かれることもありますが、どの病院で治療を受けるのかは被害者が自由に決めることができることなので「いまの医師と合わない」「病院が遠くてなかなか通えない」「知人が良い病院を教えてくれた」など、実際の転院の理由をそのまま伝えれば良いです。ただし、「現在の医師から症状固定で治療終了といわれた」という転院理由ですと、転院先の治療費を任意保険会社が支払うことは、まずありませんので、この転院理由の場合は、転院先の治療費は自費で支払うことになる可能性が高いです。

 

3.現在の医師に転院を伝える

転院先の病院が決まったら、加害者の任意保険会社に転院する旨と転院先の病院を伝えましょう。そうすると、任意保険会社から病院に「交通事故によるケガの治療なので、治療費は保険会社に請求してください」という連絡がいきます。保険会社に事前に連絡をせずに転院先の病院を受診すると、病院としては保険会社が治療費を支払ってくれるかどうかがわからないため、窓口で被害者の方に支払いを請求せざるを得ないことになります。

保険会社に転院を伝えた際、転院の理由を聞かれることもありますが、どの病院で治療を受けるのかは被害者が自由に決めることができることなので「いまの医師と合わない」「病院が遠くてなかなか通えない」「知人が良い病院を教えてくれた」など、実際の転院の理由をそのまま伝えれば良いです。ただし、「現在の医師から症状固定で治療終了といわれた」という転院理由ですと、転院先の治療費を任意保険会社が支払うことは、まずありませんので、この転院理由の場合は、転院先の治療費は自費で支払うことになる可能性が高いです。

 

転院先を選ぶにあたって

転院先がどのような病院・医師かについては、実際のところ、通院してみないとわからないということが多いでしょう。ただ、先にも述べましたように、転院の回数が増えるとデメリットが多いことから、良い病院や医師に巡り会うまで転院を繰り返すわけにもいきません。

弊所では、大分県内での交通事故の取扱件数が多いことから、大分県内の病院や医師についての情報を集約して管理しています。例えば、どの病院でどのような治療が行われているか、軽傷患者に対する医師の対応、むちうちの治療をどの程度の期間認めるか、整骨院との併用治療が可能か、転院後に診断書の作成を拒否されたことがあるかどうかなどの情報をリストにして管理し、日々、情報をアップデートしています。
また、医師の作成した後遺障害診断書も、医師ごとにまとめて管理しており、どの医師がどのような診断書を作成するのかも把握しています。

治療中に転院を検討されている方は、是非一度、ご相談にみえられてください。