残クレの車が事故に遭ったら?【残価設定型クレジットの評価損】と査定下落の不安を解消!

車の模型とクレジットカード

最終更新日2025.9.29(公開日:2025.9.29)
執筆者:日本交通法学会正会員 倉橋芳英弁護士

近年、車の購入方法として人気を集めている「残価設定型クレジット(通称:残クレ)」。月々の支払いを抑えられる便利な仕組みですが、もし残クレで契約中の大切な車が交通事故に遭ってしまったらどうなるのか、不安に感じる方も多いのではないでしょうか。特に気になるのが、事故によって車の価値が下がってしまう「評価損」です。

この記事では、残クレの基本的な仕組みから、交通事故で発生する評価損の考え方、そして残クレ契約中の車に評価損が認められるかどうかについて、わかりやすく解説します。

残クレ(残価設定型クレジット)の仕組みとメリット・デメリット

残クレってどんな支払い方法?

「残価設定型クレジット(通称:残クレ)」とは、車の購入代金の一部を、契約満了時の「残価」(数年後の下取価格)としてあらかじめ据え置き、その残価を差し引いた金額を月々の分割払いで支払っていく仕組みのローンです。

例えば、新車300万円の場合に残価を100万円に設定すると、毎月実際に支払うのは200万円(+利息)の部分だけで済むため、通常のカーローンに比べて月々の負担を大幅に軽減できます。

この「残価」は、車種やグレード、走行距離、傷の有無などによって変動すると予測される、将来の車の価値を指します。総務省が発表する「中古車残価率表」などが残価設定の目安の一つとして用いられます。残クレの契約期間は、一般的に3年から5年と短期間で設定されることが多いです。

契約満了時には、「新しい車に乗り換える」、「残価を支払って今の車を買い取る」、「車を返却して契約を終了する」という3つの選択肢から選ぶことができます。

残クレのメリットと注意点

残クレの大きなメリットは、月々の支払いを抑えられることに加え、契約時に下取り価格が保証される点です。これにより、市場価値によって下取り価格が下がる心配が少なく、短い期間で常に新しいモデルに乗れるため、頻繁に車を乗り換えたい方には特に魅力的な購入方法と言えるでしょう。

しかし、注意すべきデメリットも存在します。残クレでは、最終回の返済に据え置く残価にも金利がかかるため、一般的なカーローンと比べて総支払額における利息の負担が大きくなる可能性があります。

また、契約期間中は車のカスタマイズに制限があったり、走行距離に上限が設けられたりすることが一般的です。これらの保証条件(規定以上の損傷や走行距離の超過など)を満たせない場合には、契約満了時に追加の費用を請求されるリスクがある点には特に注意が必要です。

交通事故で車の価値が下がる「評価損」とは?

評価損はなぜ発生するの?2つの種類

交通事故に遭い車が損傷した場合、「修理費用」とは別に「評価損」という損害が認められることがあります。
評価損とは、事故によって車の価値が下がってしまったことに対する賠償のことで、大きく分けて以下の2種類があります。

技術上の評価損:

修理をしても車の機能や外観に完全に回復できない、顕在的または潜在的な欠陥が残ってしまった場合の価値の低下を指します。例えば、修理後のブレーキの異音や雨漏り、高速走行ができないなどの機能障害、あるいは部分塗装による微妙な色むらなどがこれに該当します。クラシックカーのように、美観の低下が特に重視される車の場合も認められやすい傾向があります。

取引上の評価損:

修理によって技術的な欠陥が残らなかったとしても、その車が「事故歴のある車」「修復歴のある車」として中古車市場での商品価値が下落してしまう場合の損害です。中古車市場では、事故歴や修復歴のある車の価格が下がることは公知の事実とされており、客観的な価値の低下として認められる傾向にあります。
特に、車の骨格部分(フレーム、車台など)に重大な損傷が生じた場合には、修復歴として表示が義務付けられるため、価値が大きく下がる要因となります。

評価損は「いくら」請求できる?算定のポイント

評価損の算定は複雑ですが、一般的には修理費用に対して一定の割合(例えば、修理費用の10%から30%)を乗じて算出されることが多いです。車の初度登録からの期間、走行距離、損傷の部位(骨格部分か否か)、車種の人気度なども考慮されます。

かつて裁判所は評価損の認定に厳格な立場を取ることが多く、事故後に実際に車を売却して損失が「現実化」していなければ評価損を認めない場合もありました。しかし、最近では、事故歴によって客観的に車の交換価値が下落しているという考え方に基づき、売却していなくても評価損を認める裁判例が増えています。評価損には、所有者の愛着心が損なわれたことによる精神的苦痛に対する補償という側面もあることが指摘されています。

残クレの車が事故に遭ったら評価損は認められる?

「下取価格の減額」は評価損として請求できる?

残クレ契約中の車が事故に遭っても、原則として月々の支払い義務は変わりません。修理が必要になれば、その修理費用は加害者やご自身の車両保険で対応することになります。

しかし、ここで問題となるのは、事故によって車の価値が下がり、残クレ契約で設定された「下取り保証額」が減額されてしまう場合です。残クレは保証条件が定められており、規定以上の損傷や走行距離の超過があった場合には、最終的な残価が当初の保証額を下回り、その差額を請求されるリスクがあるのです。

この「残クレ契約での下取価格の低減分」は、まさしく「事故歴により商品価値の下落が見込まれる評価損」として捉えることができます。つまり、事故によって発生した具体的な損失として、加害者に対して賠償を請求できる可能性があるということです。

評価損が「現実化」するとは?横浜地裁の判決

一般的な「評価損」は、事故歴が付いたことによる市場価値の下落を指し、その算定は修理費用に対する割合などで行われることが多いとご説明しました。一方、残クレ契約における下取価格の減額は、契約上保証されていた特定の下取価格が、事故によって具体的な追加支払いという形で発生することを意味します。この点が、通常の評価損の考え方とは異なる特殊な状況を生み出します。

残クレにおける評価損の賠償を認めた裁判例として、横浜地方裁判所が平成23年11月30日に出した判決があります(判例ID 28210120、交通事故民事裁判例集44巻6号1499頁)。この事例では、原告が残クレ契約(レクサスオーナーズローン)を利用して車を購入しており、事故が起きる前に、契約満了時には車を返却する意思を既にディーラーに申し出て確定させていました。

しかし、その後、事故に遭い車の評価額が下がってしまったため、当初の返却時の据え置き残価である395万6000円に対し、事故後の車の査定価格が255万円に低下し、原告は差額の140万6000円の追加支払いを余儀なくされたのです。

裁判所は、この追加で支払うことになった差額を「事故によって現実化した損害(評価損)」として認めました。その理由として、裁判所は「評価損は、通常は被害者が修理後も車を使用し続けることを想定しているため、事故の時点では『現実化していない』と解されることが多い。

しかし、事故の時点で価格の下落が『現実化している』のであれば、その賠償を認めるのが、事故がなかった状態に回復するという損害賠償の本旨にかなうものであり、被害者に不当な利得を得させることにもならない」と判断しました。たとえ契約上、原告が車を引き取ることも可能であったとしても、一度返却を選択した被害者が事故を理由にその選択変更を強制されるいわれはない、としました。

すべての残クレ事故で評価損が認められるわけではない?

上記の横浜地裁の判決は、「事故前に車両返却を選択していた」という特殊な事情があったため、必ずしもすべての残クレ契約の事故に適用されるわけではありません。もし事故発生時に、車を買い取るか返却するかまだ決めていない状況であれば、この判決と同じように「下取り保証額と同額の評価損」が認められるとは限りません。

しかし、その場合でも、一般的な評価損(修理費用に一定割合を乗じるなど)が認められる可能性は十分にあります。重要なのは、事故によって生じた「査定下落」が、契約上の追加支払いとして「現実化」しているかどうかという点です。

例えば、事故前に新車の発注に伴い現在使用している乗用車を下取りに出すことを計画しており、事故後もその計画に従って車両を下取りに出し、下取り価格が低減された場合は、その差額が損害として認められた裁判例も存在します(東京地方裁判所令和3年10月29日判決)。

査定下落で困らないために知っておきたいこと

残クレ契約中の車が事故に遭い、修復歴がついてしまうと、当初設定されていた残価に査定金額が満たない場合があります。すると、その差額を一括で支払わなければならないリスクがあります。これは、月々の支払いを安く抑えたいという残クレ利用者のメリットを著しく削る事態となりかねません。

また、事故とは直接関係なく、中古車市場の価格変動によって残価が実際の下取り価格を下回る可能性もゼロではありません。
このように、残クレは便利な反面、予期せぬ査定下落リスクも抱えていると言えるでしょう。このような状況に陥らないためにも、事故後の適切な対応が非常に重要になります。愛車の価値を正しく評価し、適正な賠償を受けるためには、専門的な知識が不可欠です。

まとめ

残価設定型クレジットは、賢く利用すれば便利な車の購入方法ですが、万一の交通事故に遭った際には、一般的な車の損害賠償とは異なる複雑な問題が生じることがお分かりいただけたでしょうか。

「評価損」一つとっても、残クレ契約の有無や、契約時の選択状況、車の損傷状況、そしてその損害が「現実化」しているか否かによって、その認められ方や請求できる金額が大きく変わってきます。特に、契約上の「下取保証額」の減額は、通常の評価損とは異なる特別な考慮が必要となります。

もし、あなたが残クレ契約中の車で交通事故に遭い、

  • ・事故によって車の価値が下がってしまった
  • ・下取保証額が減額されると言われた
  • ・残債の精算や追加請求について不安がある
  • ・今後の支払いについてどうすれば良いか分からない

といったお悩みをお持ちでしたら、一人で抱え込まず、すぐに交通事故問題に強い弁護士にご相談ください。
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