交通事故後に「首の症状」や「手足のしびれ」が遅れて出てきたら?見落とされがちな「OPLL」の落とし穴

事故直後に首を痛めている様子

最終更新日2025.8.4(公開日:2025.8.4)
監修者:日本交通法学会正会員 倉橋芳英弁護士

「交通事故に遭ってから、しばらく経って首の症状や手足のしびれが出てきた…これって事故のせい?」 もし、あなたが交通事故に遭った後、しばらくしてこのような症状に悩まされているなら、それは「頚椎後縦靱帯骨化症(OPLL)」という病気が関係しているかもしれません。

「OPLLって何?」「事故直後は何ともなかったのに、今になって症状が出るのはおかしいんじゃないの?」そう思われる方も多いでしょう。 そのような方のために、この記事では、OPLLという病気と、それが交通事故によってどのように影響を受け、どんなタイミングで症状が出るのかについて、わかりやすく解説します。

そして、もしあなたがこのような状況に陥ってしまった時に、大切なあなたの権利を守るためにどうすべきかをお伝えします。

そもそも「OPLL(後縦靱帯骨化症)」ってどんな病気?

まず、OPLLという言葉を初めて聞く方もいるかもしれませんね。 OPLLは「Ossification of the Posterior Longitudinal Ligament」の略で、日本語では「後縦靱帯骨化症(こうじゅうじんたいこっかしょう)」と言います。

難しそうな名前ですが、簡単に言うと、背骨(頚椎、胸椎、腰椎)の中を通っている「脊髄(せきずい)」という大切な神経を守るための「後縦靱帯(こうじゅうじんたい)」という部分が、まるで骨のように硬く、厚くなってしまう病気です。

想像してみてください。私たちの首の中には、脳から手足に命令を伝えたり、手足からの感覚を脳に伝えたりする、非常に大切な「脊髄」という太い神経の束(ケーブル)が通っています。この脊髄は、首の骨の中にあるトンネル(脊柱管)の中を通っています。OPLLは、このトンネルの壁(後縦靱帯)が分厚くなって内側にせり出してくるようなものです。

そうするとどうなるでしょう?当然、トンネルの中を通っている大切な脊髄(神経の束)が圧迫されてしまいますよね。
このOPLLという病気は、実は無症状のまま持っている方も少なくありません。つまり、OPLLがあっても、普段は何も症状が出ない人もいるのです。しかし、だからこそ交通事故との関係が複雑になりやすいのです。

交通事故が「無症状のOPLL」を覚醒させる!?

「事故前は何ともなかったのに、急に手足がしびれたり、歩きにくくなったりした…」 このように、無症状だったOPLLを持っている人が、交通事故をきっかけに、脊髄の症状を出すことがあります。

一体なぜ、事故直後ではなく、時間が経ってから症状が出るのでしょうか?
これには、以下のような医学的な理由があると考えられています。

OPLLによる「脊髄の脆弱性(ぜいじゃくせい)」

  • OPLLを持っている人の脊髄は、たとえ無症状であっても、長期間にわたってじわじわと圧迫されている状態です。
  • 例えるなら、「いつもギリギリの状態で踏ん張っているゴムバンド」のようなものです。この状態の脊髄は、非常にデリケートで傷つきやすい状態になっています。医学用語では「易損性(いそんせい)」が高まっていると言われます。

交通事故が「引き金(契機)」になる

  • このように既にデリケートになっている脊髄は、頭や首へのちょっとした衝撃(「軽微な外傷」といいます)、特に追突事故などで起こる「むちうち」(頚椎過伸展損傷)のような動きによって、症状が出る「きっかけ」や「引き金」を与えられてしまうことがあります。
  • 事故直後の症状は、軽いむちうちと区別がつかないこともあります。

症状が「遅れて発症」するメカニズム

  • 事故の直後は、一時的な炎症や衝撃で症状が出ても、ある程度落ち着くことがあります。
  • しかし、OPLLで既に脆弱になっている脊髄は、交通事故による一時的なダメージを受けた後も、「傷つきやすい状態」が続いています。
  • たとえ事故直後の症状が少し改善したとしても、脊髄には目に見えない「不可逆性の変化」(元に戻らない変化)が起きていることもあります。
  • そして、事故で弱った脊髄に、元々あったOPLLによる圧迫が再び加わることで、数ヶ月後や数年後といった「遅い時期」になってから、改めて手足のしびれや運動障害(脊髄症)の症状が本格的に現れてくるのです。
  • 特に、事故直後の脊髄へのダメージが軽度で、一時的に回復したように見えたケースでは、まさにこの「回復後に改めてOPLLによる症状が出る」という経過をたどることがあります。

つまり、交通事故が直接OPLLを作るわけではありませんが、OPLLがあることで、交通事故が症状を顕在化させたり、悪化させたりする原因となるのです。 なぜこの話が交通事故被害者にとって重要なのか?
この「OPLLと症状の遅発性」の話は、交通事故の被害者にとって非常に重要な意味を持ちます。

1. 因果関係の否定に注意!

  • 交通事故の相手方や保険会社は、症状が事故から時間が経って出た場合、「それは事故とは関係ない」「元々持っていた病気のせいだ」と主張してくることがほとんどです。
  • しかし、上記で説明したように、OPLLがある人にとっては、たとえ軽微な事故であっても、遅れて症状が出ることは医学的に十分にあり得るのです。

2. 適切な治療と賠償のために

  • OPLLは、進行すると日常生活に大きな支障をきたす可能性がある病気です。交通事故がきっかけで症状が出てきた場合、適切な治療を受ける必要があります。
  • また、治療にかかる費用や、後遺症が残った場合の補償(慰謝料や逸失利益など)は、事故との因果関係が認められて初めて請求することができます。
  • しかし、OPLLのような複雑なケースでは、医学的な知識と、それを法的に立証する専門知識が不可欠になります。

3. 「軽微な外傷」でも要注意!

  • 「軽い追突事故だったから大丈夫だろう」と自己判断してしまうのは危険です。OPLLの症状は、たとえ軽微な外傷であっても、それを契機に発症することがあると報告されています。
  • 「外傷の有無」は、術後の成績に影響を与える要因の中でも、特に重みが大きいとされています。これは、脊髄がすでに外傷によって傷つき、さらにデリケートになっている可能性があるためです。

交通事故後に「OPLLの症状かも?」と感じたら、すぐに弁護士にご相談ください!

もしあなたが、交通事故後に次のような症状が遅れて出てきたら、決して一人で悩まず、できるだけ早く専門家にご相談ください。

  • ・手足のしびれが強くなってきた
  • ・歩きにくくなった、足がもつれるようになった
  • ・箸が使いにくい、ボタンがかけにくいなど、手の細かい動きがしにくくなった
  • ・膀胱(ぼうこう)の調子が悪くなった(尿が出にくい、頻尿など)
  • ・事故直後は何ともなかった、もしくは症状が軽かったのに、時間が経って悪化してきた

これらの症状は、OPLLによる脊髄症のサインかもしれません。そして、交通事故との因果関係が争点になる可能性が高いケースです。

当事務所がお役に立てること

OPLLについての豊富や知識と経験

当事務所は、交通事故に関する医学的な知識を豊富に持ち合わせています。OPLLと交通事故との因果関係が裁判で争いになったケースも数多く取り扱ってきました。これらの知識や経験を活かし、最善の進め方をすることができます。

症状が遅れて出た場合でも、その医学的な機序を理解し、あなたに有利な証拠を集めるお手伝いができます。

交渉の代行

保険会社との交渉は、医学的な専門知識に加え、賠償に関する専門知識も必要です。法律のプロである弁護士が交渉を代行することで、あなたが不当な扱いを受けず、正当な賠償を受けられるよう尽力します。

治療への専念をサポート

保険会社とのやり取りや複雑な手続きは、大きなストレスになります。弁護士に任せることで、あなたは治療に専念し、回復に集中することができます。

将来の不安を解消

OPLLは、症状が一度発症すると、脊髄に不可逆性の変化が起こっている可能性が高く、手術時期についても慎重な判断が求められます。将来的な症状の悪化や後遺症についても見据え、適切な補償を得ることが重要です。このように、あなたの将来を見据えたアドバイスを提供します。

まとめ:諦めずに、まずはご相談を

交通事故とOPLLによる症状の遅発性。これは、医学的に複雑で、法律上も争点になりやすいデリケートな問題です。しかし、決して諦める必要はありません。「事故から時間が経ったから」「自分に持病があったから」と、補償を諦めてしまう前に、まずはご相談ください。

当事務所は、あなたの症状と事故の因果関係を医学的な見地からしっかりと検討し、あなたの正当な権利が守られるよう、全力でサポートいたします。
無料相談を受け付けております。少しでも不安に感じることがあれば、お気軽にお問い合わせください。あなたの抱える疑問や不安を、私たちと一緒に解決していきましょう。