2013年3月28日


違憲無効 弁護士倉橋


ここ2~3日、広島高等裁判所で、前回の衆議院選挙が「違憲」であり「無効」である、という戦後初の画期的判決が出たということが大きなニュースになっています。

今日は、このニュースについてのお話です。


憲法ってなに?

まず、「違憲」ってどういうこと?というところから説明します。

日本には、星の数ほどの法律があります。

法律を作る権限があるのは、国民が選んだ国会議員で構成される国会です。「日本は民主主義国家だ」というのは、選挙を通じて国民自身が法律を作っているということができるからです。

そして、法律に基づいて行政機関は行政を行っています。というか、法律に基づかない行政はできません。これも、民主主義のあらわれです。ですから、国会議員よりも官僚が偉くなって、「法律を作るのも実質的には官僚主導」ということになれば、それは民主主義の理念にはなじまないことになります。

このように、民主主義の国では、国会が法律を作るのですが、どんな内容の法律でも自由に作れるわけではありません。国会の立法権にも一定の制約があります。民主主義だけに頼っていては、危険なので歯止めが必要なのです。

民主主義の危険性をあらわす最も良い例は、ヒトラーによるナチスドイツです。
ナチスドイツの行った行為が許されるものではないことは当然のことですが、ナチスドイツの出来事が恐ろしいのは、あのような支配者・政権が、クーデターなどではなく、民主主義の手続にのっとって誕生し、国民の熱狂的指示を受けながら暴挙を尽くしたという点にあります。
むしろ、「民主主義を利用しながら権力を極大化させていった」とえるでしょう。

このように、民主主義は万能ではないため歯止めが必要になります。
その歯止めこそが、憲法なのです。
憲法は、国家の中で最高位のルールで、憲法に反する法律や行政の行為は無効です。これが、憲法が「法律の中の法律」と言われるゆえんです。


一票の格差って?

その憲法に、このような規定があります。

憲法14条1項
 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

この憲法14条からすると、有権者の一票の重みは平等に扱わなければならないということになります。

つまり、どの小選挙区も同じくらいの有権者数になるようにうまく選挙区割りをしなければ憲法14条に違反する可能性があるのです。

「いまの選挙区割りは、そのような平等な選挙区割りではないので憲法14条の法の下の平等に反する」というのが、現在の裁判所の判断です。

有権者の数の多い小選挙区の人が、有権者が少ない小選挙区の人に比べて不平等に扱われていて、それが憲法違反といえるレベルだということです。


違憲でも有効?

この議論には続きがあります。そして、この続きの話こそが、「戦後初の画期的な」判決のニュースに関係します。

「選挙区割りが憲法14条違反である」という判決は、最高裁判決も含めて、いままで数多くありました。

しかし、いままでの判決は、「憲法14条違反だけど、選挙自体は有効。だから、選挙はやり直さなくてもいいよ。」という判断をしていました。

というのも、「選挙自体を無効にしちゃったら、40日以内に選挙をやりなおさなければならないことになっていて大混乱になるから、選挙のやり直しは回避しましょう。」という判断です。

そのために使われる理屈として代表的なものが、「事情判決の法理」というものです。

行政事件訴訟法という法律に、「行政の行為が違法な場合には裁判所が違法な行政行為を取り消すのが原則だけど、取り消した方が国民のために不利益な場合には、違法な行政行為を取り消さないこともできる」というルールがあるのですが、この考え方を持ち出して、「違憲だけど有効」とするのが事情判決の法理です。

いままでは、裁判所は事情判決の法理などを使って、違憲な選挙を「有効」と判断し続けていました。

しかし、今回、初めて「違憲で無効。選挙をやり直しなさい。」という判断を裁判所がしたのです。

法律家の多くは、「どうせ上告されて、最高裁で事情判決の法理で有効になるんだろ。」と冷めた目で見ているかもしれませんが、裁判所からのメッセージとしては、かなりインパクトがあったと思います。

国会議員のみなさんには、いち早い是正を期待します。