医療保護入院をめぐる法律問題

日時:平成25年8月10日
場所:ホルトホール大分
主催:大分県精神保健福祉士協会
テーマ:医療保護入院をめぐる法律問題

コメント

 大分県精神保健福祉士協会の定期勉強会に招かれてお話をさせていただきました。テーマは、「医療保護入院をめぐる法律問題」というなかなか専門的なテーマでした。

 

 今年になり、精神保健福祉法が改正になり、精神疾患者に対する医療保護入院の要件が新しくなるということで、弁護士の観点から、この法改正について話をして欲しいというご依頼でした。私としても、決して明るいとはいえない分野がテーマなので、多くの資料を集めて、勉強をしながら準備を進めました。

 

 今回、このテーマについて掘り下げて勉強して思ったことは、現状の精神疾患患者に対する医療保護入院を始めとする制度には、様々な問題点があるのではないかということです。弁護士的視点から見れば、精神疾患患者の人権が軽視されやすい(人権侵害が起こりやすい)制度なのではないかという懸念を持ちました。ただ、現場で働く精神保健福祉士の方などにとっては、私が思うような理想論は机上の空論で、そのような理想論では、現実問題として、目の前で日々起きる問題に対処できないということもわかりました。質疑応答では、弁護士として意見に対して、現場からの切実な意見をいただきました。

 

 この問題は、まさにこれから、より良くしていかなければならない問題です(今年の法改正については、予め3年後をめどに見直しが予定されています。)。私も、今回の勉強会を機に、この問題について、精神保健福祉士の方々とともに関わっていきたいと思います。

講演内容

平成25年8月10日
弁護士 倉橋芳英

 

1.医療保護入院制度の合憲性(医療保護入院の要件)

 

東京地裁平成2年11月19日(資料1)
〈事案の概要〉
①S57.5.18 X(原告)は、うつ病が治癒したとの診断書を得るために、以前うつ病治療で入院していたA病院で診察を受けた。B医師は、Xが他人に迷惑をかける可能性のある躁状態にあり、外来治療も期待できないと判断し、看護士 数人でXを拘束し入院させた。


②B医師は、Xの父親と兄に入院についての同意を得た(これにより、法33条の要件をみたしたとB医師は解していた。)

③S57.5.31 B医師は、法定の保護義務者は、別居中のXの配偶者のみであると気づき、Y市長に入院への同意を求めた(病名「躁うつ病の疑い」、通知事 由欄に「保護義務者選任申立中」と記載した書面を送付。)

④S57.6.5 Y市長は、Xの住所が市内にあることを確認しただけで、慣例に従い日付を5月18日に遡らせた同意書面を送付し、Xは7月15日まで入院した。

⑤Xは、同意入院が、自己決定権を侵害し、平等原則に違反し、人身の自由を奪い、適正手続を欠くもので違法であり、また、本件では医療保護入院の要件をみたしていなかったとして、
⇒・国に対して国家賠償請求(医療保護入院制度を作った国会議員の立法行為の違法、
  適切な行政指導などを怠った行政の違法)
 ・Y市に対して損害賠償請求(入院の要件をみたしていなかったのに同意をした違法)

 

〈判旨〉
 ①医療保護入院の合憲性について
・医療保護入院は、人身の自由の剥奪になり得るものであり、措置入院のような厳格な手続きがなく、適正手続の欠如などの重大な憲法上の疑義がある。
  ・本人の同意ではなく、保護者の同意を入院の要件とした趣旨は、精神障害の場合は、病識がないなどのため、入院の必要性を本人が適切に判断することをできないことがあるため、保護義務者の同意を通じて本人の利益をより厚く保護しようとしたもの。
  ・理由のない入院から本人を保護する手段は、保護義務者の同意のみであるから、保護義務者の同意の手続きは、措置入院の手続と同等かそれ以上の機能を果たすことを予定している。
    →∴保護者の同意にあたっては、有効な入院契約の存在や入院要件に関する医
師の判断の当否について疑いを抱くべき事情のないことを確認すべき義務がある。
      →このように解さないと医療保護入院制度は違憲の疑いがある。
 ②本件のY市の同意の違法性について
   Xの住所が市内なることを確認しただけで、上記の同意者としての義務を果たしていないので違法。

 

〈ポイント〉

 ①医療保護入院について違憲の疑いのある制度であることを明言した。
 ②同意義務者の同意が適切になされ、不必要な入院のチェックとして機能している場合
に合憲といえる制度であるということ。

 

〈本判決と法改正との関係〉

 ①保護者制度の廃止
 ②医療保護入院の要件の変更(「保護者の同意」から「家族等のいずれかの同意」へ。扶養義務者内での優先順位の規定を置かず。)

 医療保護入院の要件緩和
  ⇒上記裁判例の指摘する、「同意義務者の同意により不必要な入院をチェックすることによる適正手続の保障を図ることができる」という機能の弱体化。
  ⇒指定の判断が入院決定に占める比重が大きくなる。
  ⇒同意義務者の確認義務についての判示は改正により意味を失うか?
  ⇒意味は失わない。安易な同意が 違法となることに変わりはない。
   ←専門家として、要件チェックが適切に行われるようにサポートすることが必要。

 

2 医療保護入院の違法性が争われた裁判例

 

①岡山地判H15.2.20(資料2)

 医療保護入院が適法と判断された。

〈事案の概要〉
  被告医療法人が経営する病院において、被告法人の代表者である被告が強制的に原告を25日間入院させたことに対して損害賠償請求をした事案。

〈判旨内容〉
 医療保護入院の5要件をそれぞれ満たしていることを判示
  ⇒①指定医の診察
     →入院当日の診察だけでなく、自身の過去の診察や他の医師の診察結果まで踏まえて判断しているので問題はない。
  ⇒②精神障碍者
     →入院当時、精神分裂病であった。
       ∵原告の主張する被害や事実が存在する客観的証拠はない。
⇒③医療及び保護のために入院の必要があった
     →要件をみたす
       ∵・病識がなく外来治療は無理
        ・入院時、母親に対する暴行をかなりの頻度で繰り返していた。
        ・物損の交通事故を起こしている。
        ・家出、無断外泊を繰り返していた。
  ⇒④任意入院が行われる状態にない
     →要件をみたす
       ∵・病識がない。
        ・病識は医師から数時間説得されて生じるようなものではなく、投薬などによって病状が回復して徐々に生じてくるもの。
        ・入院時の状況(激しく暴れて抵抗するなど)
  ⇒⑤保護者の同意
     →事後の同意ではあるが、医師からきちんと説明を受けたうえで同意をしており、問題はない。

 

【コメント】

   ・原告は、入院の判断をした医師と病院を訴えたが、医師の対応に特に問題はなかったため請求は棄却された。
   ・母親と兄は訴えられていないが、母親と兄が押さえつけて引っ張って病院まで連れて行った点は、違法と判断される余地もあった。

 

②東京地裁H15.8.29(資料3)

〈事案の概要〉
  原告の両親の通報により警察に通報され、その後、A病院に連れて行かれ医療保護入院をさせられたことに対して、病院を設置し管理運営にあたる地方公共団体を相手に損害賠償請求を行った事案。

〈判示内容〉
 ①担当医が医療保護入院の措置を取ったことについて
   ⇒適法
    ∵・従前の症状について両親から聴き取りを行っている。
     ・当日認められた空笑、被害妄想、思考障害等を総合的に考慮して精神分裂病の特徴が認められると判断している。
     ・精神分裂病の診断は、臨床症状や病歴などを総合的に判断した精神科医の専門的判断である。
     ・病識に乏しかった
     ・医療保護入院の必要性は短時間に判断しなければならない。
     ・転送先の病院でも精神分裂病と判断されている。
  ②入院中に身体を拘束したことについて
    ⇒適法
     ∵過去に何度か他害行為を行っており、病識もないため、予期せぬ衝動的な行動を起こすおそれが十分にあった。

 

【コメント】

 ・過去に、弟を鉄アレイで殴ったり、寮の隣室の者を果物ナイフでケガをさせたりといった他害行為を行ったことがあったため、医療保護入院・身体拘束も適法であると判断された。

 

③東京地判H18.12.15(資料4)

〈事案の概要〉
 原告が、精神科の疾病に罹患していないにもかかわらず、両親に拉致され、精神科病院に入院させられたとして、両親と病院対し損害賠償請求をした事案

〈判示内容〉
  ①両親が原告を病院へ連行した行為
    ⇒違法(慰謝料10万円)
      ∵・直ちに自傷他害の事態に陥るような切迫した事態にはなかった。
       ・原告宅のチェーンキーを切断して侵入した行為、警備員が両脇を抱えるようにして病院まで連れて行き、途中で擦過傷を負わせた行為は穏当さを欠く行為である。
       ・本来、医療保護入院のための移送は、法34条所定の手続によることが予定されており、本件でも同条2項に基づく都道府県知事の移送を求めることができた。
  ②医師が医療保護入院の措置をとったこと
    ⇒適法
      ∵・原告が訴える被害状況を裏付ける客観的証拠はない。
       ・病識がなかった。

 

【コメント】

  両親が病院へ無理やり連れて行った行為が違法とされた。
   ⇒自傷他害の危険性が高くない状況で、有形力を行使して強制的に病院に連れて
行く行為は、違法と判断される可能性が高い。

 

④東京地判H19.2.28(資料5)

〈事案の概要〉
 原告が実兄の妻である被告に意に反して強制的に防衛医科大学校病院に連れて行かれ、被告の言を信じた医師により精神病患者として扱われ拘束されたことによる損害賠償を求めた事案

〈判示の内容〉
  原告が身体の自由に一定の成約を受け、不利益を被った事実は認められるものの、当時の原告の症状、病院医師らの医学的判断、講じられた措置の目的、態様、手続等を総合すれば、違法性はない。

 

⑤東京地判H22.4.23(資料6)

〈事案の概要〉
 精神に異常のない者を複数の親族が精神病院に入院させるなどしたことが共同不法行為にあたるとされた事例(350万円の損害賠償を認定)

〈判示内容〉
  ①入院時の原告の精神状態について
    ⇒精神障害の状態にはなかった。
     ∵・入院当日、原告方での原告の様子をみて「精神運動興奮状態」と判断したというが、記載内容からみて伝聞であることが明らか。
      ・不法に拉致されると認識した原告が興奮した態度を呈したからといって、これを精神状態の異常によるものとみることには無理がある。
      ・関係者らの証言によれば、原告に精神異常を疑わせるような言動はなかった。
  ②被告らが原告を入院させようとした理由
    ⇒原告が離婚した外務官僚の元夫との争いで、外務省関係者などの様々な人に迷惑をかけ、ひいては、自己の社会的地位、信用が害されるのを避けるために原稿を精神病院に収容することを企画した。
  ③原告を精神病院に入院させたこと、入院させようとして原告宅のドアなどを破壊したこと、③保護者選任の申立てをした際に「妄想型人格障害」と申告したことは全て違法である。

〈コメント〉

  ・精神障害にない者を入院させたとして高額の損害賠償の支払いを命じた判決。
  ・被告らは、原告を精神科の病院に入院させようと、原告宅の玄関ドアを破壊して侵入し、原告が浴室内に立てこもった際には、浴室のドアも破壊するなど、相当に悪質な態様で原告を病院へ連行しようとした事案であった。
  ・本件では、原告が弁護士へ相談し、①自宅建物への立ち入り禁止等の仮処分や②家庭裁判所に保護者を解任する職権発動を求めるなどの弁護活動をして奏功している。

 

【まとめ】

 ・医師の判断を否定した裁判例は、ほとんどない。
 ・患者の意思に反して、有形力を行使しての連行は違法と判断されるおそれがある。
   ⇒法34条の移送手続などを活用すること

 

3 他県の取り組み

  福岡県 精神医療当番弁護制度

以上

0120-367-602 受付時間 09:00〜17:30

メールでのご相談はこちら

交通事故無料相談会

日程2017.08.09

開催事務所内会議室

 

出張相談対応中

最新 解決事例のご紹介 ~全ての被害者の方が ご納得のいく賠償を実現したい~

  • 頭部・脳

         解決事例  代表的事例

  • 顔面・目耳鼻口

          解決事例   

  • 肩・鎖骨

           解決事例  

  • 腕・肘・手

           解決事例  代表的事例

  • 腰・腰椎

        解決事例  代表的事例

  • 胎盤・内臓

        解決事例